2043年11月17日
お父さんは休みを取った、でもまた病院に行くかもしれない。お母さんは家に帰ってきてくれる。
今日はあたしの誕生日だ。
ケーキはお母さんが買ってきてくれる。プレゼントは分からないけど、お父さんが前から準備しているみたい。
「レイナーお誕生日おめでとー」
ケーキにさされた14本のろうそくをあたしは吹き消した。
「今日から14歳だな、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
あたしはちょっと照れくさかった。こうやって3人そろうのは珍しいことだ。お父さんは医者で、夜勤がしばしばある。お母さんは歌手をしているらしい。人気歌手らしいので仕事が多く家に帰らないこともよくあった。
「そうだ、写真を撮りましょう」
「え、何で?」
「だって3人そろうのって珍しいじゃない。今のうちに3人で写った写真を残しておきましょう」
そしてどこからか分からないがお母さんはカメラを取り出した。
「お前って用意周到だな」
そういえば写真なんて久しぶりだ、みんな恥ずかしがりで写真に写りたがらないから。
「あなた、早くしてよ」
「でもどうやってすれば分からないんだ」
結局お母さんがやってしまった。写真をとった後、あたしたちは席に戻った。
「レイナ、お父さんからプレゼントだ」
そういって取り出したのは長方形の包み。包みを開けるとそこには写真立てが入っていた。
「あなたねえ、そんなものしか思いつかなかったの?」
お母さんがちょっと怖い。
「だ、だって何を渡せばいいか分からなかったんだ」
そういえばお父さんからプレゼントをもらうのは初めてだった。あたしはとっても嬉しかった。
「お父さん、ありがとう」
お父さんは照れくさそうに顔を赤くした。
「さて、あたしからもプレゼントがありまーす」
「へえ、何だ?」
「あなたは知っているでしょ」
「ああ、あのことか」
「もう、忘れっぽいんだから」
そういって二人は準備を始めた。これから何をするんだろう。
「それでは今回の新曲を披露しまーす、今回の新曲は『青春の今を生きる』でーす」
「おい、おまえこのコードどうなってんだ?」
「あのねえ、あなたがしっかりしてくれないとだめでしょ」
お父さんがいろいろなコードを持ってあたふたしている。結局お母さんがすべて準備してしまった。
「それでは、行きまーす」
その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「あれ、こんな夜遅くに誰?」
「俺が出るよ」
そう言ってお父さんが玄関に行った。
「お父さん帰ってくるまで待ってようか」
「うん」
その時、玄関が騒がしくなった。
「いったいあなたたちは何なんですか」
「私たちは浅葱レイナに用があると言ったはずだ」
「だからいったいどうして私たちの娘に用があるんですか」
「そんなことお前には関係ない」
大きな音がした。
それからこっちへ歩いてくる音がした。あたしたちは目を見合わせた。
こっちに来た人たちはあたしの全く知らない人だった。どうしてこんな人たちが私に用事があるの?
「浅葱レイナ、私たちに同行してもらおうか」
何がなんだかさっぱりだ。
「なんでレイナを連れて行くのよ」
「お前には関係ない」
「どうして、あたしはこの娘の親なのよ」
その瞬間、お母さんに黒いものが突きつけられていた。
「あたしたちは暴力には屈しないわ。命をかけてこの娘を守る」
そして、お母さんは頭から血を流して倒れた。
あたしは恐怖に包まれた。誰かがあたしの腕をつかんだ。
「さあ、私たちについてきてもらうぞ」
「・・して」
「何だ」
「離してーーー」
それから後はよく覚えていない。
残骸と化した所に数人が倒れていて、その中心にあたしがいた。あたしは呆然としていた。しばらくしてお母さんの親戚の人がやってきて、あたしを引き取ってくれた。
2045年4月6日
「レイナー、準備は済んだ?」
「ちょっと待って、すぐ行くから」
あたしは着替えていた。机の上には写真立に入った両親と3人で写った写真がある。その隣にはお母さんが最後に作った曲の入ったCDがある。
あたしはまっさらの制服に身を包み、かばんを持っておばさんのところに行った。
「終わったよ」
「それじゃあ行きましょうか」
あたしたちは玄関の扉を開けた。
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