2045年4月6日
空は真っ青な青空が広がっている。
目の前には『高世山西区第十三高等学校』と書かれている。あたしは今日からこの学校の生徒になるんだ。
「なかなかいい所じゃない。いい天気だし、入学式には絶好の日ね」
おばさんがあたしにそう声をかけてくる。
入ってすぐ見える運動場には、新入生とその親で溢れかえっている。圧倒されてしまいそうだ。
人混みをなるべく避けようとしてもがいていたら、奥にあった校舎の方に来ていた。あたしのいた中学校よりかなり大きい。
しばらくしておばさんとはぐれたことに気がついた。
「あ・・・」
どうしよう、ひとりになっちゃった。
「おばさん、どこ?」
おばさんを探していたら、いつのまにか誰もいないところまで来てしまった。
「ここ・・・どこ?」
途方にくれていたとき、知らない人がどこからかやってきた。
「あれ?確か用事の無い生徒はみんな帰るようになっているはずだけど」
「え・・・」
え・・・あたし、帰るの?
「あ、もしかして新入生?」
「あ・・・はい」
何だかよく分からない。
「そっかあ、道に迷ったんだね。それだったら会場まで送ってあげるよ」
「あ、すいません」
は、恥ずかしい。
その人についていったら、会場の入り口におばさんがいた。
「レイナちゃん、いったいどこに行ってたの。おばさん心配したのよ」
「・・・ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。それじゃあ中に入りましょう」
「・・・男子124名、女子76名、計200名の入学を許可します」
ううう、緊張する。後ろにはおばさんがいるし、周りに座っている人たち、みんな頭いいんだろうなあ。
入学式が終わり、あたし達は教室に移動した。
担任の先生は、あたしを会場まで送ってくれた人だった。
「入学式でも紹介があったんだけど、僕の名前は田島強です。教科は理科で、今日からこのクラスの担任を勤めさせていただきます」
後ろに保護者が居るせいか、緊張している。先生でも緊張することあるんだあ。
「それじゃあ一人ずつ自己紹介しようか」
知らない人だらけだあ、何だかちょっと怖いなあ。
「あの・・・浅葱レイナです・・・よろしくお願いします」
この時間はよく覚えていない。いつの間にか時間が過ぎ、気づいたときは後ろの子があたしに声をかけたときだった。
「ねえねえ」
え・・・?あたしは振り向く。
「アタシ、安藤由香里。あなたは?」
「あ、浅葱レイナ」
「ふーん、レイナちゃんか。よろしく」
「よ、よろしく」
「ねえねえ、レイナちゃんって何処から来たの?」
「えっと・・・北区から」
「へえ、この街に居るんだ。アタシは東京からやってきたんだよ」
「え、遠い」
「うん、ここに来るために頑張ったんだ」
それからあたしは由香里ちゃんと色々話し合った。
「あ、お母さんだ。それじゃあまたね」
「うん」
先生からの連絡も終わり、生徒が帰宅し始めた。あたしが校門まで来た時におばさんと出会った。
「レイナちゃん、どうだった」
「えっとね、友達が出来たよ」
空はきれいな夕焼けだった。
13日
あたしは由香里ちゃんとその友達と5人で昼ごはんを食べていた。
「ここって全国トップじゃんさあ、やっぱり人いっぱい来ると思うよねえ。でも今年ってさあ、普通科の受験生って定員ギリギリなんだって」
「へえ、そうなんだ。やっぱり少子化かなあ」
「そうそう、だからアタシ達が必死に受験勉強した意味無いのよ」
「それ最悪だよねえ」
由香里ちゃんと友達が話している。あたしはそれを聞いている。
「でもさあ、理数科の方は定員凄かったらしいよ」
「ああ、毎年の2倍は来ていたって言ううわさのことでしょ」
「そうそう、400人受けてきたって話」
あたしはビックリした。
「由香里ちゃん、それ本当?」
「そうなのよ、レイナ知らないの?」
あたしはそういう情報には結構うとい。この高校は凄いと思っていたが、理数科は本当に想像以上の凄さらしい。
「だから理数科の人たちって頭おかしい人ばっかりだとおもうわよ」
「ああ、自分だったら絶対友達になれないわ」
「まあ女子自体少ないらしいしね」
そんな新しい情報に戸惑いながら、あたしは本当に凄い高校に来てしまったのだと改めて感じてしまった。
ふとあたしの弁当箱を見た。タコだけ残っている。タコはあたしの一番嫌いなものだ。でもおばさんが作ってくれた弁当だから食べないわけにはいかない。
他の子はもう食べ終わっていた。
「あれ、レイナまだ食べているの?」
「うん、嫌いなものだけ残っちゃった」
「残せばいいじゃん」
「ううん、おばさんが作ってくれたから」
「ふーん」
そうしてタコとの格闘が始まった。
「次体育だよ」
「先行ってて」
他の子はたいそう服に着替え始めた。あたしはまだタコと格闘している。
タコを食べ終わったのはみんながたいそう服に着がえ終わり、教室を出て行ってからのことだった。
「遅刻しちゃう」
あたしが着替え始めたのは予鈴がなる五分前だった。人一倍とろくさいので、自分なりに急いで着替えをしたつもりだったのだが、着替え終わったら予鈴がなってしまった。
「後5分で授業が始まる・・・」
4階から下りるのだって一苦労だ。ほとんど間に合う望みは無いのだが、それでもあたしはがんばった。
しかし、2階から1階へ下りる階段で運悪く足を滑らせてしまった。しかも1階から階段を登る人影が見える。ぶつからないように望んだが、その願いは叶わなかった。その人ともろにぶつかってしまった。
あたしはその人を吹っ飛ばして階段の一番下まで落としてしまった。
「あ・・あ・・ご・・・」
ごめんなさいと言おうとしたところでその人と目が合った。純粋な赤色。一瞬見とれてしまった。
「おい、大丈夫か」
その声ではっと気がついた。今あたしは・・・この人を押し倒している。
「ああああ、ごめんなさい!」
それだけ言って逃げ出してしまった。遠くからチャイムの音が聞こえてきた。
結局体育に遅刻し、先生にこっぴどくしかられてしまった。
「あははは、へえ、それで逃げてきたの」
「う・・・うん」
「あはははは」
「わ、笑わないでよ」
あたしは由香里ちゃんに階段で起こったことを話した。
「そこで『好きです』なんていったらもっと面白かったのに」
「そんなこと言わないよ」
あたしは真っ赤になった。
今あたし達は物理教室にいる。6時間目は物理だ。由香里ちゃんはあたしの隣に座っている。
「でも一体誰なんだろうねえ。もしかして不審者だったり」
「え・・・」
あたしは青ざめた。
「いやいや、冗談だって」
そのとき物理の先生が現れた。あ・・・。
「あの人・・・」
「もしかしてあれが例の人?」
由香里ちゃんがひそひそ声で話してきた。
「うん」
あたしもひそひそ声で返した。
でも眼は黒色だった。
「それでは授業を始める」
起立、礼。そして着席。
「はじめに自己紹介か・・・。俺の名前は相沢タダシ、担当は理科だ」
そう言いながら『相沢正子』と書いていった。
「本当にマサコだ」
男子の誰かが言った。先生はにらみつけた。男子は黙った。
そしてあたしのほうを一瞬見た気がした。あたしは冷や汗が流れてきた。
「もしかしてあのこと怒ってんじゃないの」
由香里ちゃんがひそひそ話してきた。
「それでは授業を始める」
授業が終わるまであたしは気が気ではなかった。授業が終わったら由香里ちゃんとなるべく先生から離れながらすばやく物理教室から出た。
「もしかして本当に怒ってんじゃないの」
「う・・・それだったらどうしよう。謝りに行くべきかなあ」
「でももう謝ったんでしょう。だったら行く必要ないんじゃない」
それでもまだ不安だ。
「大丈夫だって」
「そうだったらいいんだけど・・・」
どっちにしろ相沢先生とは仲よくなれなさそう・・・。
20日
由香里ちゃんに誘われて吹奏楽部の見学に行った。あたしは確か中学時代は部活に入ってなかったはず・・・。
由香里ちゃんはフルートをやっていたらしい。銀色の長い楽器を持った先輩たちと楽しそうに話している。
あたしは1人になったので、いろいろな楽器を持った人たちを眺めていた。やってみたいけど話しかけられないなあ。
そのとき、何かの音にひきつけられた。
そちらのほうを振り向くと、1人の女の子が楽器を持って演奏していた。背が高く、髪の毛が長い茶髪でまっすぐに伸びている。スタイルもいい。さっきの音は彼女が演奏した音だった。
素敵な音だなあ。楽器ってあんなにいい音が出るんだあ。
その音に引かれて、あたしは吹奏楽部への入部を決意した。
その楽器はホルンと言うらしい。ホルンの先輩たちが教えてくれた。
ホルンの先輩と、新入部員で自己紹介した。
「浅葱レイナです。よろしくお願いします」
緊張する、先輩たちに囲まれると恥ずかしい。
「水島楓です、よろしくお願いします」
さっき演奏していた女の子がそういった。
それで先輩たちの自己紹介も終わった。
「よろしく」
さっきの女の子が話しかけてきた。
「あ、よろしくお願いします。水島先輩」
そう言ったら不機嫌そうな顔を返された。
「私も一年生だ。敬語で話す必要はない」
「あ・・・ごめん」
私はうつむいた。
「あと・・・楓でいい」
彼女は少し照れくさそうに言った。
「・・・うん、よろしく。楓」
「よろしくな、レイナ」
また1人友達ができた。
前へ
次へ